Lifestyle / Gourmet / Culture / etc... 漫画・書籍
蔵前仁一著「あの日、僕は旅に出た」は“自分探し”などのキモい要素がないイイ本だった件
蔵前仁一さんという“モノカキ/旅雑誌の編集者/イラストレーター”な著者の、これまでの旅と人生を綴った自伝「あの日、僕は旅に出た」を読みました。
昨年インドへ行き「インド病」(何を見てもインドに結びつけちゃう病)にかかってしまったワタクシと友人プリ美。
この本は、プリ美が本屋でジャケ買いしてきたもので、私たちのインド病を盛り上げるのに大いに役に立ちました。(といってもインド中心の旅行記ではなく、アジアを中心とした世界各国の旅と人生の本です)
読み物としての面白さはもちろん、著者の蔵前仁一さんに何か勝手に親近感を感じましたので、レヴューしとこうと思います。
蔵前さんて?バックパッカーのバイブル「旅行人」を作ってた愛すべき趣味人
蔵前仁一さんという人は、80年代〜90年代のバックパッカーたちにとってのバイブル「旅行人」という雑誌を刊行していたお方。
ワタクシはこの「旅行人」の存在自体知りませんでした(2011年に休刊)。
「旅行人」読んだことないけど、「どういう立ち位置」の本だったかは、マイナー出版社の仕事を覗いたこともある自分には、手に取るようにわかる…気がします。
メジャー誌とは全ッ然趣を異にした、思い入れたっぷりの、アングラ感たっぷりの、でも太〜い熱狂的な客が付くような、趣味オジさん(当時は若者w)の目頭をアツくさせる雑誌なんだろうなと想像できる。
音楽誌でいったら、そう、「BSR(ブルース&ソウル・レコーズ)」!これメッチャ立ち位置近いと思ふ♡
BSRは日本で唯一のブルース/ソウル専門誌(メィニアック!)。
BSRも、元は趣味のブルース同人誌から始まって、アングラ界で大盛り上がり〜隔月刊になり、今もブルージーなオジ様たちに細く長〜く愛されている雑誌です。
たぶん、「旅行人」もBSRと同じで、読者の8〜9割が男でしょうね笑。
しかも、ちょっとその、ねばっこい感じの笑。
なんか、こういう、煌びやかでない世界にズップリ浸かっちゃう、それに(結果的に)人生捧げちゃってるサエない男たちって憎めない。(サエない=いろんな意味でオタクって意味ね。ある意味褒めてます)
男って、バカねぇ。(驚き呆れ、でもちょっと羨ましい)
それを地でいってる感じを想像しながら、この「あの日、僕は旅に出た」を読み進めました。
キモい「自分探し」要素一切なし!オナニーなしの素直な文章がステキ♡
タイトルの「あの日、僕は旅に出た」だけピックアップすると、なんとなく自分探し君的なイメージも彷彿とさせるが、どっこい全然違う。
蔵前さんは、旅にへんな叙情や精神論を持ち出さないのがステキ♡
驚きや感動を素直に伝える文章だから、最後まですらすらと読み進めることができました。
ちなみに私も「インドにはまっちゃった」と友達に言おうもんなら、「あ〜、自分探し的な?」「そっち行っちゃった?」などと言われる。
べつにそういうワケじゃなく、ただエキサイティングで超楽しいだけなんだけど!
インドが好きだからといって仲屋むげん堂で服を買っているわけじゃないし、ヴィレッジヴァンガードかぶれでもないのよ笑。
そんな感じで何となく変わった人扱いされる、日本では肩身のせまいインド〜アジア好き。
でもそうなんです。蔵前さんの姿勢と同じで、かぶれているわけじゃなく、自分探しもせず、ただ楽しんでいるだけなんです!
変わった経験をしてきたトモダチに「面白いおハナシ聞かせて〜」とたずねる感覚で読むのが◎
本書は、インドをはじめアジア・中東などへの旅行記と、出版社の話と、人生の出来事なんかが、つらつらと綴られています。
マニアックな旅の裏話がいっぱいで楽しいが、決してそれがメインというわけではなく、全体的には蔵前さんが歩んできた人生のストーリーとなっている。それと、出版業界の隆盛と斜陽・・・時代の流れを感じさせてくれる構成だった。
なので「もっと旅の情報が知りたい!」などという読み方は無粋。
ちょっと変わった経験をしてきたおじさんに、面白い話聞かせて〜ってくらいの大らかさで読むのがよろしいかと。(フォレスト・ガンプみたいに?)
人生は短い!毎日を大切にしなきゃ・・・。
アタシは本当になんの前知識も入れないで読んだので、最初はなぜか勝手に30代くらいの人が書いてるイメージで読んでいた。
多分、それだけ蔵前さんの語り口がナチュラルで敷居の低い、年齢を感じさせない親しみを持ったものだったからだと思う。
んで後半の「僕は55歳になった」という記述でハッとした。こマ?
人生って、短い!
同世代くらいの感覚でふんふんと読み進めていたら、いつの間にか血肉をそそいで作り上げた雑誌も休刊して、持病の話とかしてるし!!!www
妙にリアルな感覚で、人生のあっという間さを感じることができました。切ないわね〜。
(蔵前さんはもちろんご存命。今日も元気にツイートしたり、相変わらず旅関連の本を出版したりしてるみたいです。なんか、元気だと嬉しい♡)
全体的には、物語は淡々とユーモラスに、どこか楽観的にこんなもんかなっていう感じで綴られているので、本当に気負いなく読めます。蔵前さんの飾らない人柄が出ているわね。
〜〜〜〜
ということで、蔵前仁一さんの「あの日、僕は旅に出た」は・・・
やっぱり間口としては、旅好き(特にアジア)にオススメしたい本という立ち位置ではあります。
そして、「強く惹かれた方向に深く考えずに(←コレ重要)進んでいけば、苦労はあっても道は勝手にできちゃうものだ」ということがリアルによくわかる本でもあります。
旅に出てみたいけど、出るヒマも行動力もない人なんかにもオススメ(疑似トリップできます)。
蔵前さんは旅にへんな精神論とか「自分探し」要素が一切ないので、素直に肩のチカラを抜いて読める一冊です。