Lifestyle / Gourmet / Culture / etc... 漫画・書籍
卯月妙子「人間仮免中つづき」感想:けもののようにポジティブ
卯月妙子著「人間仮免中」シリーズが好きです。
「人間仮免中」シリーズは、幼い頃から統合失調症を患ってきた漫画家/AV女優/アーティストの卯月妙子と、パートナーであるボビーとの生活を綴った自叙伝的な作品で、各方面で絶賛されている漫画です。
絶賛といっても、誰もが取っ付きやすい題材ではない。
私個人としては大変に興味深く面白かったのでゼヒとも人に薦めたいのだけれど、結構「辛くて読めない」「暗い気持ちになる」など、感想がまっぷたつに別れるようだ。
まー確かに過激な描写もあるし、精神が元気じゃない人にとっては何かしら食らってしまう可能性アリなので気をつけて読もう。
知らない人のために、卯月妙子さん豆知識をざっとご紹介すると・・・
・漫画家。幼い頃から統合失調症を患い、幻覚幻聴のなかで育つ
・カルトな舞台女優として舞台やSMショーなどに出演
・AV女優としても活動(普通のやつじゃなくてス○トロ的な方面)
・最初のダンナも統合失調症、のちに自殺
ダンナは自殺するまでの自分の人生そのものが作品と考えていた?ような描写も過去にあり、最期は飛び降り自殺。卯月さんもそれを止めなかった(自殺幇助と自分では言っている)
・自殺したダンナの戒名を背中に入れ墨している
(ちなみに性器には今のダンナのボビー氏の名を入れ墨)
・2004年、舞台の上で自身の喉をかっ切る自殺未遂
・2007年、歩道橋から飛び降り、顔面崩壊&片目を失明
・現在まで入退院を繰り返し、時には寝たきりになりながらも漫画を描き続けている
(・A・)・・・
まあちょっと、普通に会社行ってる我々には、想像つかないレベルw
統失、AV、家族の自殺、自身の自殺未遂etc.etc...
壮絶イベントの数え役満のようなお人だ。
そんなあまりにもエキセントリックな人生を歩んできた卯月さんだが・・・
「人間仮免中」シリーズは、これまでAVや緊縛ショーなど一般人には理解されにくいアングラな世界での自己表現にとどまってきた卯月妙子さんが、いろんな垣根をとっぱらって命を削って届けてくれた名作!と私的には思っている。
いままでエッジィさやシュールさをプライドとして生きてきたアーティストが、「年月」と「周囲の支え」によって自分の殻を破ったからこそ誕生した、素晴らしい作品。
(とはいえ、受け付けない人にはダメみたいです笑。。)
統合失調症のアーティストといえば草間彌生が有名だが、卯月妙子は“持ち味”がより生々しい女性性と結びついている(いた)アーティスト。
戸川純や椎名林檎をカルトに過激にアングラに、百倍グロテスクにしてAVもSMもやっちゃった感じといえばいいかしら。(女優としては)
ところが一転して、卯月さんの「漫画作品」にはヌくようなエロさ・女性性は無く、昔から一貫してギャグ漫画タッチだし、底抜けに明るい。
それは、自身のエキセントリックで波乱に満ちた人生を、辛いことも多いだろうにゴキブリ並みに「ド根性」で生きているような描写。
いや〜、好きだなぁ。
精神病を題材に扱うと、アーティスティックで難解だったり、陰鬱な世界観だったり、世間に対していじけた感じがあったり、やたらと感動的だったり、人生論が多くなったりしがちだが、卯月さんはスポ根なのだ。
このギャップ、素晴らしい。
人間、やっぱり最後は根性よね♪(夜露死苦)
もちろんそれは彼女の描いた「漫画の世界」が明るくギャグに満ちているってだけで、実際の人生は苦痛に満ちた時間が多いことに間違いはない。
(「人間仮免中」シリーズは明るいが、統失患者とその家族が抱える絶望と悲しみも端々ににじみ出ている作品だ)
「人間仮免中」シリーズの締めくくりは明るく希望のある描写で終わる。力強い。
でも実際の人生には続きがあり、自分の意志でキレイに終わることなんて出来やしない。
実際、「人間仮免中」の漫画以外の部分…“あとがき”などを読むと、漫画での印象より現実はシビアなことが伝わってくる。
「ここ十数年、何かとあがくたんびに症状が悪化し」
「睡眠障害が酷く、睡眠時の薬がどんどん増えて、主治医から、このままいったら、10年後には寝たきりになってしまうから、漫画が一段落したら、減薬に挑戦しようと言われています」
「(漫画を描き上げる)最後の2年間は寝たきりに近い状態でした」
「現在の服薬は(・・・以下中略・・・)自分史上、一番少ない服薬での生活が可能なところまで回復しました」
(↑「人間仮免中つづき」を書き上げた直近の状況は、病状も安定してきているらしい。良かった。)
ほんっと、この中で作品を作り上げるなんて、なんという不屈の魂なんでしょう。まさにド根性。
あとがきを読む限りでは、脳も体もフル回転させねばならない執筆中は、やはり病状(服薬状況?)も良くないと見受けられる。文字通り、命を削ってる。
それでも創作をし続けたいという彼女の創作欲、そしてそれを、自身も病みそうになりながら笑い飛ばすダンナのボビーの愛は凄い。
「次に入院するのならば一緒に死のう」が口をついて出てくる程本気で卯月さんを想うボビー、そしてそれがプロポーズよりも幸せに感じる卯月さん。
・・・彼らのやり取りにキレイごとは一切ないが、必死で生き切っている人生はキレイなのだということを思い知らされる。
どうか1日でも多く、2人が笑っていられますように。
てか、死ぬ時は2人同時にたまたま死ねないかなぁ(心中とかじゃなくねw)・・・とか、そんなことまで祈ってしまうほど応援したくなる2人の人生です。
卯月さんに描く情熱がある限り、どんなに駄作になってもいいから何かしらの形で続編が出てほしいと願う一冊。